月夜見
 残夏のころ」その後 編

    “夏が来たらvv”


それは大きくて暴れん坊な台風が、
前振りも込みの数日がかりで
日本列島を掻き回して。
関東地方は その少し前にも、
とんでもない勢いの土砂降りやら雷雨やらで
散々な目に遭いまくっていたとはいえ、

 「台風はやっぱり別格だよなぁ。」

ゲリラ豪雨も冠水したりする、
突発的な落雷は火事だって引き起こすけれど。
某国の空軍が基地からこぞって愛機を避難させたほど
それはそれは凄まじい強風圏が
どーんと押し寄せたのだから、と。
何だか妙な言いようで感心している
青果直販店『レッドクリフ』の店長さんで。

 「主だった顔触れが居ないんすけど。」
 「ああ、今日は休ませた。」

ものが飛んで来たとか飛んでったとか、
店自体への被害は幸いにして出なかったので、
大荒れ当日に、
最低限居ないと困る頭数をそろえるべく、
少々無理言って招集かけた顔触れが、
それへの代休という格好、
翌日になる今日はお休みを取っており。

 「エースはあれだろ?
  白髭とかいうじいさんとこの手伝いとか。」

 「ああ。
  何でもビニールハウスに穴が空いたらしい。」

台風一過の今日は今日で、
後片付けや手当てが必要だからと、
得意先の畑へすっ飛んでってる孝行者もおれば、

 「ルフィはどうしましたよ。」
 「うん。
  搬入班の剣道兄ちゃんとお出掛けらしい。」

店長自ら あちこちから掻き集めた生鮮野菜を
野外テントの特設売り場へ並べつつ、
重苦しい鈍色だった昨日と打って変わって、
すかんと晴れ渡った空を見やると、

 「今日はきっと凄まじい暑さになるだろから、
  一日どっかで涼んで来なよって、
  ○○海浜海水浴場の
  開場セレモニーのチケット譲ったからなぁ。」

ふっふっふっvvと、どこか楽しい企みごとでも想像するよに
低く微笑った赤髪の店長さん曰く、

 『暑い暑いと大騒ぎして、
  またぞろ通報されかねん ややこしいカッコで
  店先に立たれてもかなわんからな。』

今日はどうせお客も少なかろうからと、
屋外エリアへ待望の冷風スモークを出す装置を設置することとしたらしく。
それを甥っ子へのサプライズとするのも兼ねて、
彼が誘えばまずは鉄板で釣られよう、
年上だけれど後輩の剣道青年さんに言い含め、
ちょこっと遠出させたらしい。

 「○○海浜海水浴場って…よくそんなコネありましたね。」

確かあそこって、
名前こそそこいらの浜辺みたいに野暮ったいですが、
何の何の、
雰囲気ある四阿(あずまや)やナツメヤシの据えられた、
南国リゾートの高級ホテルの庭先みたいな水際もあって、

 「ルフィは金づち小僧だから、
  そういうところのほうが楽しめはするんでしょうが。」

競泳用の四角いプールや 流れる何とかでは楽しめない身。
なので、いっそ海に出掛けるならともかく、
プールへ出掛けても することがないと拗ねるだけが相場。
波打ち際風の人工的な浅瀬が設けられてある、
プールというより水遊びが出来る公園みたいなところだけに、
成程、あのやんちゃな坊やには打ってつけの水辺ではあるけれど、

 「…そういう場所ってことは、
  此処でご披露しかねなかった
  リゾート風のいで立ちで遊ぶんじゃあ…。」

 「そうなるかもな。」

何でも、今年もまた
女子高生向けのチューブトップにデニムの短パン、
ネットのベストってな組み合わせの、
かーいらしいの買ってたらしいし、と。
一緒に居る誰かさんには
とんだ苦行に成りかねないカッコをしているらしいの、
重々判ってて高笑いする、
お人の悪い店長さんだったそうでございます。

 台風一過、
 どちら様も猛暑日の急襲にうんざりしておいでだった
 とある週末のお話でございます。




      〜Fine〜  14.07.13.


  *ありゃ、肝心な当事者たちを書けなんだわ。(おいおい)
   店頭で暑さのあまりに裸エプロンもどきをされるよりはマシと、
   屋外冷房装置を取りつけつつ、
   お守りを依頼したゾロくんが困りそうな
   そんなお茶目を企む店長さんで。
   でもでも、
   他にも多少はお客が居るだろうプールサイドでは、
   ルフィさん自身の愛らしさにくらくらしている場合じゃなくて、
   余計な虫が寄らないようにと目配りする方で
   大きに忙しいかも知れません。(何だかなぁ


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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